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持久力競技の食事のポイント
2024.02.06 おすすめ記事

持久力競技の食事のポイント

前回、競技特性や目的に応じて食事内容を変える必要性があることをお伝えしました。では、競技によってどのような栄養素を重点的に摂れば、パフォーマンス向上に繋げられるのか? 今回は持久力系の競技について詳しくお伝えします。

 

持久力系の競技とは…

 持久力系の競技とは、陸上の中・長距離走やマラソン、トライアスロンなどです。競技時間が長く、エネルギー消費量の多いのが特徴です。そのため、持久力が重要な鍵となります。また、筋肉の消耗も激しいので筋力も必要です。

 

重要視したい栄養素は「糖質」

持久力系競技で重要視したい栄養素は、長時間運動を続けるために必要なエネルギー源となる「糖質」です。

糖質は食事から摂取すると消化されてグリコーゲンとなり、体内に吸収されて主に筋肉と肝臓に貯蔵されます。筋肉に貯蔵されるグリコーゲンは筋肉を動かすエネルギー源となり、肝臓に貯蔵されるグリコーゲンは脳を動かすエネルギー源となります。

筋肉に貯蔵されるグリコーゲンは「筋グリコーゲン」と呼ばれ、運動時の筋肉の収縮のために使われます。運動前に筋グリコーゲンの貯蔵量を十分にしておくことで、例えば陸上の長距離走の場合は、長時間、質の高い走りができます。しかし、貯蔵量が不十分だと、すぐにエネルギー不足を起こし、筋肉も疲れてよい走りができなくなってしまいます。練習や試合前には糖質を十分に摂取し、練習や試合後には競技で使ったグリコーゲンをいち早く回復させることがポイントになるため、補給のタイミングが重要です。

糖質とビタミンB1を一緒に摂りましょう

糖質を多く含む食品として、ご飯、麺、パン類はおなじみですが、いも類やかぼちゃ、にんじん、春雨、ビーフン、果物などにも多く含まれています。主食の量を多くして糖質の摂取を増やすのもいいのですが、副菜を糖質の多いじゃがいもの煮物や春雨スープのようなものにするのも一つの方法です。ただし、いくら糖質の多いじゃがいもでも、フライドポテトのような揚げ物では脂質を多く摂取することになり、消化吸収に時間がかかってカロリーも高くなるので、調理法にも注意が必要です。いろいろな具材を入れられるスープや味噌汁なら手軽で体も温まり、水分補給にもなるのでおすすめです。

運動量の多いアスリートはエネルギーの消耗が激しいため、補食も必要です。捕食として向いているのは、肉まんやあんまん、団子、餅、カステラ、どら焼き、果汁100%ジュースなど。また、練習中や休憩時間の水分補給には、スポーツドリンクやエネルギーゼリーなどを上手に活用して筋グリコーゲンを補うといいでしょう。

 糖質を摂る際に忘れてほしくないのは「ビタミンB1」です。ビタミンB1は糖質をエネルギーに変えてくれる栄養素で、疲労回復ビタミンともいわれています。ぜひ、糖質とセットで摂るようにしましょう。雑穀ごはんや麦ごはん、納豆ごはんにすると、簡単に両方を摂ることができます。

ビタミンB1を多く含む豚肉を使用した豚丼や生姜焼き定食などもおすすめですが、これにニンニクや玉ねぎ、ネギなどを加えると、「アリシン」という栄養素がビタミンB1の吸収を促進してくれるので、より効果的です。(疲労回復ビタミンについては、Food Library「運動後、疲労を次の日へ持ち越さないためには!」もご覧ください)

 また、食べるときは、ゆっくりよく噛むことで消化吸収力がアップします。食べ方も意識してみてください。

貧血と疲労骨折に注意!

マラソンや長距離走の選手は、足の裏に強い衝撃を受け続けることで足底部を流れる血液中の赤血球が破壊されてしまったり、長時間の運動で大量に汗をかくため汗とともに鉄分が失われたりして、貧血になりがちです。また、体重を落としたほうが有利な競技の場合には、食事を制限することで鉄分の摂取不足から貧血になるリスクを抱えるアスリートも多いのです。

体重制限をするとエネルギー不足になり、骨粗鬆症に陥って疲労骨折しやすい傾向があります。特に、ジュニア世代は一生の骨量を決める大切な時期。その時期に骨量を増やす材料が不足したり、エネルギーが不足したりすると、将来の骨の健康に支障をきたしかねません。その場の競技人生には望ましくとも、将来的にはマイナスになりかねないことをお忘れなく…。

 結局のところ、運動量に見合ったエネルギー摂取を心がけ、貧血や疲労骨折を予防するために必要となる栄養素を意識して摂ること。エネルギーが不足していないか確認するとともに、運動量を見直すことが重要です。(鉄を多く含む食品、骨をつくるために必要な栄養素についてはFood Library「持久力を高める食事」「食事や運動で健康な骨を作る!」もご覧ください)

エネルギー不足は、貧血や疲労骨折のリスクを高めるだけではなく、さまざまな疾患を招いてしまいます。生活や運動のために必要なネルギーに対して、摂取エネルギーが不足している状態を「利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability:LEA)」といい、女性アスリートの場合は、それが原因で無月経になることがあります。LEA、無月経、骨粗鬆症は「女性アスリートの三主徴」と呼ばれ、これら3つの症状を含め、2014年に国際オリンピック委員会が提示した「スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport:RED-S)」では、成長・発達、免疫、心疾患、代謝など、全身にさまざまな悪影響を及ぼすとして警鐘を鳴らしています。RED-Sは、女性アスリートに限らず男性アスリートの健康やパフォーマンスにも影響を及ぼすとされています。

持久力系の競技では、特に糖質を意識して摂ることが大切です。競技の特性によって貧血や疲労骨折のリスクも高まります。そのため、バランスのよい食事を心がけ、糖質を意識して摂取し、エネルギー不足を防ぎ、ポイントとなる栄養を忘れないことが大切です。

【参考文献】

Prolonged mismatch between calories eaten and burned may be putting many athletes at risk of REDs

https://www.bmj.com/company/newsroom/prolonged-mismatch-between-calories-eaten-and-burned-may-be-putting-many-athletes-at-risk-of-reds-relative-energy-deficiency-in-sport/

ライター:山下 真澄

管理栄養士|日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士|
食育インストラクター|一級惣菜管理士|調理師